障がいと芸術表現に対するこれまでの画一的な語られ方や受容のされ方への問いかけを、「アール・ブリュット」を掲げ探求する「みずのき美術館」(京都府)、「鞆の津ミュージアム」(広島県)、「はじまりの美術館」(福島県)、「藁工ミュージアム」(高知県)の初めての合同企画展として開催いたします。 universe-things.info
監修者日比野克彦は「アール・ブリュットとは何か」という問いを、より普遍的、根源的な問いとして昇華させる言葉として、「TURN」という言葉を掲げました。
本展で紹介する27余名の作家は、「陸」という日常に「海」へと潜るような視座を向けることによって、日常生活やわたしたち自身の中に驚くべき豊かさが息づいていることを見出した者たちです。日比野克彦自身は、監修者として、障がい者支援施設へショートステイ(※1)し、TURNについて深く思考した軌跡が展覧会の展示作品の軸に据えられます。
本展では、より豊かに感受する意識がもたらす新しい世界の可能性を、「TURN」という言葉と共に問い直します。
※1 ショートステイ:障がい児、障がい者や高齢者などを、家族が一時的に療育、介護することができない場合や、心的負担の軽減を図るために、福祉施設に短期入所することができるサービス。本展ではサービスを模して実施。
私たちの身体には昨日までの記憶が積み込まれている。生まれる前の記憶も命の連鎖が運んできている。その中には遥か昔の海の中で生命が誕生した記憶もあるだろう。「人がはじめからもっている力」は自分ひとりで獲得できたものではなく、これまでに地球上に誕生した全ての生命があったからこそ持ち得た才である。
しかし現代に於いて、この「人がはじめからもっている力」を意識することは難しい。なぜなら現代社会は「人がはじめからもっている力」のエッジを覆い、協調性を持たせる事により均衡した社会基盤を形成する手法で現代を作り上げようとしてきたからである。そして必要とされないが為に、「人がはじめからもっている力」の存在を意識する感覚が大衆の中で遠のいていき、そして人が生まれた後の陸上での個人の中だけで思考する「時間の根」の浅い集団が社会の中に多く出現してきている。そんな姿は本当に均衡がとれている社会と言えるのだろうか?私たちが未来に向けて歩みを進めている方向はこれでいいのだろうか?
私たちがこれから、これまでの時間と同じくらい命を紡いでいくには、「人がはじめからもっている力」が備えている真の意味での強い生命力が必要であるのではないだろうか。「人がはじめからもっている力」は海からの記憶が作りだした才である。そして全ての命が自分とつながっていることを意識出来る身体の再獲得が、これまで経験してきた時間を自己の中で展望できる視点を得ることになり、それこそが社会に於ける均衡した基盤になりえるのではないだろうか。TURNとは、更に連なっていくであろう次なる世代が、豊饒な生き方をする為に、ひとがはじめからもっている力を再認識する陸から海への旅である。
日比野克彦(2014年7月 合同企画展監修者)